新年明けまして御目でとう御座います。今年の正月は天候的には場所によってなかなか厳しかったですが、それぞれ家族団欒の楽しい一時を過ごされたものと思います。
 それでは、吉例に従いまして干支により、今年の年相を見ましょう。小生が昨年暮れに致知出版社より上梓した『強運をつくる干支の知恵』に書いておきましたので、それをさらっと見て、そこに書かなかったことを触れておくという形でお話ししましょう。

 今年は乙未(いつび・きのとひつじ)であります。
まず乙でありますが、前著では次のように書いておきました。許慎(きょしん)の『説文』に「春に草木、冤曲(えんきょく)して出ずるも、陰気なお強く、その出ずること乙乙(いついつ)たるを象(かたど)る」とあります。つまり、前年に出た草木の芽が外界の抵抗が強くまだ真っ直ぐに伸びないで曲がりくねっている状態の象形であるため、新しい改革創造の歩は進めるが、まだ外の寒さや障害にあって屈曲するという意味であります。
 それ故に、いかなる抵抗や紆余曲折があろうとも、その改革を気概を持って進めていかねばならないということです。ちなみに、乙乙(いついつ)と言えば、思うように物事が進まず、はかばかしくなく苦労する意です。
 乙の他の字義として、甲骨文字を亀版に彫る両端に刃のある曲刀の形に象(かたど)るとか、その小曲刀によるつかえ曲がりながらのびた彫り目であるとかいった説もあります。いずれにしても曲がるという意が基本の字義です。
 もう一つの解釈は、乙形の骨ベラで、糸の乱れを解く道具の象形であり、転じて「乱」をおさめると読む根拠になったとするものです。

 次に未でありますが、未は上の短い「一」と「木」から成っていて、「一」は木の上部の枝葉の繁茂を表し、枝葉が繁茂すると暗くなることから、未は昧(まい)に通じ「くらい」と読みます。従って未年は、剪定(せんてい)をし、枝葉を払い落とし、明るくしなければなりません。そして生々(せいせい)たる生命を進展させる必要があります。こうしたことから転じて、我々の世の中でも物事を不昧(ふまい)に持っていくことを心がけ、何事も筋を通して曖昧にしないで公明正大に行っていかなければなりません。
 その他の解釈としては、未は「味(あじ・あじわう)なり。六月。滋味(じみ)なり」と『説文』にあるよう、万物が成熟して滋味を生じた有様を指すという説もあります。
 未を使った熟語は実に多くあります。例えば、未来、未知、未決、未然、未熟、未遂、未完、未読等々です。いずれも「いまだ」と解釈すれば良いのです。要は行為や状態等の結果が分からないことを示す漢字と言えます。株式相場の世界でも「ひつじ辛抱」と言われていますが、分からない時には期が熟すまでぐっと動かず我慢しろということでしょう。
 未に動物では羊が当てられていますが、古来中国では羊は食料や神への生贄(いけにえ)に捧げた貴重な動物であり、吉祥動物の一つで「羊致清知」(羊は天下太平をもたらす)という言葉もあります。また、漢代の『春秋繁露』という政治・道徳の論文集の中に「羊は角があるのに用いないのは『仁』を好む者のようだ。これもとらえても鳴かず、殺しても泣かないのは、『義』に死する者の類である。子羊が乳を吸うとき必ず母の前にひざまずくのは『礼』を知る者の類である。だから『祥』のごとしと言う」と羊を賛美しています。
 さらに羊の夢を見ると良い嫁がもらえるとか、漢の高祖劉邦が角と尾のない羊を追う夢を見て、夢判断の専門家が王となると予言したという逸話もあります。
 以上の字義から乙未の年は、前年からの持ち越しの案件や因習・悪い慣例を打破して、問題解決に向けて一層努力しなければならないのです。それを怠ると従来の改革すべき勢力が力を増し、暗くなっていきます。周辺諸国においても内乱や紛争が起こりがちでその影響は少なからず日本にも及んでくるので、状況や形勢をよく観察して、行動しなければなりません。

 では、史実に乙未の年の出来事を見てみましょう。六十年前の一九五五年には、国内では日本住宅公団が設立され、国民の生活基盤の充実を図る動きが活発化しました。また、自由民主党も結成されました。日本はこの年に関税及び貿易に関する一般協定(GATT)に正式に加盟しました。海外では、西ドイツが主権の完全回復を宣言しNATOに加盟しました。インドネシアのバンドンでアジア・アフリカ会議が開催されたり、原水爆禁止第一回世界大会が開かれました。このように一方で第二次世界大戦後の最終的な処理がなされ、世界の平和と安定を求める動きが見られましたが、他方では旧ソ連がワルシャワ条約機構を結成し東西の冷戦が激化しました。
 もう少し遡って百二十年前、すなわち一八九五年に起こった大きな出来事の例を拾いますと次のようなことがありました。

・下関にて李鴻章と日清講和条約の調印が行われた。
・独・露・仏三国が日本に遼東半島を清国に返還せよと三国干渉を行う。
・乙未戦争……下関条約によって日清戦争が終結し、日本は正式に台湾の割譲を受け、両国は平和を回復した。しかしこの割譲に反対する清国の残兵や一部の台湾住民が抵抗し、戦闘となった。台湾総督府が開庁され、六月十七日を台湾始政記念日とした。
・乙未事変(閔妃殺害事件)……『日本語大辞典』(講談社刊)によると、朝鮮李朝の高宗の妃の閔妃が一八九五年、日本人に暗殺された事件。三国干渉後反日・親露政策をとった閔妃派に対し、日本公使三浦梧楼は大院君を擁して親日政権樹立を企て、閔妃を殺害したとされている。

 最後に乙未の字義と史実から今年のポイントを列挙しておきます。
 第一に、乙未の年は昨年の甲午の年から始まる二〇二四年までの一〇年間の時世を象徴するような変質が強いエネルギーを持って徐々に姿を現してくると考えられます。そうした変質を求めるエネルギーに対して様々な抵抗勢力や障害が出てきて、順風満帆の年というわけではありません。新しい芽を大きく育てるため、これまで以上に知恵を絞って努力を重ねた慎重な対応が必要となります。
 第二に、乙未の年は昨年の甲午の年と同様、紛争や騒動が起きやすい年ですが、乙の乱を治めるという字義の如く、柔軟に対応していかなければなりません。米国では昨年十一月の中間選挙で上下両院を共和党が制したため、今年一月以降、オバマ政権のレームダック化が一段と進行し、議会の対外姿勢はより強硬となるでしょう。イスラエルも今三月には総選挙が実施される予定であり、中東和平が遠のく可能性があります。
 国内でも集団的自衛権や日米防衛協力の指針(日米ガイドライン)の改定に向けた国会審議も本格化していきます。
 中・韓・露で戦後七〇年を巡って様々なイベントがあり、日本との関連で議論がなされる機会が増えるでしょう。日本はこうした中で、未来思考に基づき建設的な外交関係を樹立すべく隠忍自重し、尽力しなければなりません。
 第三に、東洋史観では、日本は二十五年に亘る「陰」の時代を終えて二〇一三年から「陽」の時代に移行していると見ます。二〇一二年に表鬼門を通過しました。ここから裏鬼門の二〇三七年ぐらいまで「陽」の時代が続くと見ます。従って、次に触れますが、経済や株式市場は基本的に強いと思われます。

 最後に我々SBIグループの経営環境について述べておきます。幸いにして我々SBIグループの経営環境は良好で、十五年三月期については最高益の更新とROE二桁の達成が見込まれます。その後も当面良い環境が続くものと期待されます。
 その理由は、第一に二〇〇八年のリーマンショック以降徹底的に事業ポートフォリオの「選択と集中」及び経営合理化を図ってきたこと。第二に昨年暮れの衆院総選挙でアベノミクスが国民により信任され当面継続されると見込まれることです。アベノミクスは我々の事業環境に異次元の金融緩和と結果としての超低金利・大幅な円安という二つの大きなメリットをもたらしました。円安になっても数量ベースで輸出が増えないとの議論がされてきましたが、最新の貿易統計数字を見ると輸出は増加に転じ、貿易赤字が縮小してきており、これはやはりJカーブ効果の故であったことが判明してきたようです。経常黒字も急増してきています。
 さらに安倍政権は今後第三の矢すなわち構造改革を通じた成長戦略を打ち出して行くものと思われます。既に爼上に載っているのは法人税の段階的大幅減税です。その他TPPへの参加や岩盤規制改革等々やるべき事は沢山あります。省庁や業界団体等が改革に揃って強く反対するので岩盤規制を打ち破ることは大変ですが、安倍政権は突然の解散総選挙という荒技で今回の消費税の増税を二年半先き延ばすという難事を成し遂げたわけですから、今後も岩盤規制緩和を様々な手で断行して頂けたらと思います。また、歴代政権がなし得なかった歳出改革の本命である社会保障改革(すなわち医療費と介護費の伸びに歯止めをかける改革)を通じて財政の健全化にも取り組んでもらいたいと思います。

 また次の三つの海外要因も我々の事業環境にとって大きなプラスです。
 一つ目は、三度の量的緩和の金融政策を受けてアメリカ経済が堅調に推移し、遂には政策金利の引き上げが議論されるまで正常化されてきたということ。企業業績も順調で、株式市場が史上最高値に到達しても過熱感は全くありません。今年は、昨年十一月の中間選挙で共和党が上下両院を制したので、共和党は持論である大型減税法案を両院通過させる可能性が大きいでしょう。減税は当然景気拡大の長期化にプラスでしょう。
 二つ目は、原油価格が大幅に低落してきたことです。原油価格の低下は交易条件の改善を通じて先進国の景気を刺激するものと考えられます。今年は先進国主導の景気拡大が期待出来そうです。
 三つ目は、世界的に緩和的な金融政策が採られていることです。昨年九月のECB(欧州中央銀行)による政策金利の引き下げ、十一月の中国人民銀行による引き下げ等です。今後も追加的な金融緩和が予想され景気の追い風になっていくでしょう。
 では、グループの更なる飛躍に向け、全員一丸となり大いに奮闘努力して下さい。

SBIホールディングス株式会社
代表取締役 執行役員社長 北尾 吉孝