明けまして御目出とうございます。皆さんどのようなお正月を迎えられましたか。
 私は年末年始とアメリカにおいて2013年初に大型減税失効と歳出大幅削減の重なる「財政の崖」問題がどのように決着するのかまたNYの株式市場や為替のマーケットがどうかとやきもきしながら日米のニュースをインターネットで見ておりました。後程申し上げますが、まさに今年の年相を表象するような出来事でした。
 では、吉例にしたがいまして早速、干支から見た本年の年相に移りましょう。

 今年は、癸巳(みずのと・み)音読みでは「キシ」であります。先ず、癸(キ)と巳(シ)それぞれの字義について触れておきます。
 癸ですが、甲から始まる十干(じっかん)の十番目つまり最後です。いわば甲から始まる十年間の締め括りの年です。
 癸の甲骨文・金文等の古代字形を見ると矢尻を四方に突き出したような形をしており、ある学者は「兵(ぶき)なり。三鋒(ぽう)矛(ほこ)なり」としています。四つの刃がぐるっと一巡すれば周辺はなぎ倒されます。世の中が次の世に移る為に、力づくで前の十年の世を完全に終わらせるということだろうと思います。

 後漢の許慎(きょしん)の『説文解字』では、「水四方より地中に流入する形」としています。すなわち十干の最後ですから四季で言うと冬の最後、晩冬です。草が枯れ、木々の葉が落ちた冬枯れの景色の中に、それまで隠れていた四方の水路が現れてきた。その形であるとしています。
 さらに「冬時、水土平にして揆(き)度(たく)すべきなり」と説明されています。見通しがよくなり、物を測るのにちょうどよいということで、癸には「はかる」という意味があります。測る時にはどうしても人の手が加わりますから、手偏をつけて「揆」という同一の義に用いられる字が生まれてきました。
 揆度(全体を推し量る)、揆策(計画)、百揆(もろもろの計画)、首揆(国の計画を主宰する大臣、宰相、首相)といった熟語ができてきました。また「はかる」には、はかる標準や原則がなければならないから「則(のり)」とか「道」とかいう意味がでてきます。

 揆一という熟語は、道とか則すなわち原理、法則というものは、いつの時代でもいかなるところにおいても一でなければならないということです。「孟子」にも「先聖後聖、其の揆一なり」と、いつの世でも聖人の立てる筋道というものは変わらなく一つであるとあります。ところが為政者が堕落して基準にならなくなると、これに対する民衆の不平・不満が爆発して暴動が起こる。これを日本では一揆というようになりました。
 このように今年は過去十年を冷静に総括し、次の十年の飛躍に向けた布石を打っていく年です。従って万事筋道を立てて物を考え、それに則って企画・政策を立て、どんどん実行していかなければなりません。筋道を踏みはずすと物事は混乱・騒動・争乱になったり、ご破算になる危険があります。

 次に、巳(シ)であります。巳は十二支の六番目、季節は四月です。動物では蛇に配せられます。
 では巳の字義に移りましょう。
 『説文解字』には「四月陽気すでに出、陰気すでにかくれ、万物あらわれ、彣彰(ぶんしょう)(美しい色どり)をなす。故に巳、蛇となる。」とあります。つまり巳は冬眠していた蛇が春になり地上に現われた形なのです。後漢の『白虎通』にも「巳は物必ず起こるなり」とあり、これまで伏在していた色々の問題、人物等が次々と表面に出てきたり、活動することを表示しています。
 また巳(シ)は已(イ)に通じ、「止(や)む」の義を持っています。ですから、巳(シ)は物事がいったん終結し、また新たに出発するという意を含んでいます。
 さらに、学者によっては「包(子宮膜)の中に在する形」として胎児を表わすとしています。つまり新たなる生命が誕生しようとしている形とみています。
 上述から、巳の意義は従来の因習的生活に終わりを告げて、新たなる創造に向かって出発するということです。

 本年の癸巳の年相を考察する上でもう一つ重要なポイントがあります。それは、癸巳は甲子(きのえね)から始まって三十年という干支六十年の中間点にあたるということです。これから前半の三十年では、前世代の体質が混在しているが、これからの三十年ではこの世代の本質が支配します。その意味で大転換の始めの年となります。歴史を見ると、一八九三年の癸巳、伊藤博文内閣が戦時大本営条例公布、翌年朝鮮出兵さらには日清戦争突入と以後軍国主義が拡大し、太平洋戦争とつながりました。一九五三年の癸巳、前年に米軍の占領が終わり、奄美群島の本土復帰、中国残留者の引き揚げ、NHKのテレビ放送の開始、日本航空の設立等々、戦後の独立した民主主義、資本主義に向けての体制が整っていき、その後の未曾有の繁栄と進んでいく。二〇一三年の癸巳の年相も過去の癸巳の年と同じく、その後の三十年の趨勢が決まる大転換の始まりの年となるでしょう。

 これからの三十年で様々なことが大きく変化していくでしょう。例えば、これまでの日本の戦後の繁栄を支えてきた社会経済システムはすでにいたるところで機能低下をきたしており、今後大きく変化して行きましょう。世界に目を転ずると、パックスアメリカーナの終焉ともいうべき多極化した時代に突入し、FTAが各国で締結され新しいグローバル貿易体制が定着していきそうです。また世界中の国で経済格差の拡大や資源・エネルギー・環境等々の問題も深刻化しそうです。領土問題や宗教対立の激化も起きそうです。このように多くの課題が山積しており、今年はそうした問題の解決に本格的に取り組む第一歩になる年であります。

 前述した癸巳の字義を踏まえ、我々は従来の因習的生活に終止符を打ち、これからの時代にあるべき国の姿、企業の在り方、人としての生き方をよく考え、物事の本質を求め、規範を定め、筋道を立て、新たなる企画の政策を立案し、一致協力して山積する問題の解決に向け、果敢にチャレンジしていかなければなりません。
 ニーチェが言うように「脱皮できない蛇は滅びる」のです。

SBIホールディングス株式会社
代表取締役 執行役員社長 北尾 吉孝